2年生 (Class of 2011) のMNです。
前々回、前回に引き続き、Buyout Labの紹介です。今回は、プライベート・エクイティ(以下「PE」と省略)でのインターンシップを通じて得た学びについて書きたいと思います。
参考までに、Experiential Learningに関する過去の投稿はこちら(第1回、第2回、第3回、第4回)。
Buyout Labを振り返ってみると、今まで履修したどのコースよりも学びは大きいものでした。学びが大きかった要因としては、インターンシップ先の創業者兼マネージング・ディレクターがマッキンゼーの元パートナーであり、その彼と密接なコミュニケーションを取れたことと、また若干無茶とも思えるほど責任のある仕事を任せられたこと、の2点が挙げられます。さて実際の学びについて考えてみると、大きく分けて1. 知識面、 2. スキル面、3. コミュニケーション面での学びがありました。
1. 知識面での学び
1-1. 日本とアメリカのM&A市場におけるPEのプレゼンス
以前は会計士の立場からM&Aに関わっていたこともあり、PEの方々と一緒に仕事する機会が多くありました。私の限られた経験からすると、日本のM&A市場では、PEの数自体が比較的少なく、またオーナー経営者が会社を売却することに対して抵抗感があるためか、出物が少ない印象を受けます。その結果として、日本のM&A市場では、洋の東西・規模の大小を問わずPEが限られた案件に群がる状況が多く見受けられました。
一方アメリカのM&A市場では、日本と比較して、PEのプレゼンスが圧倒的に高い印象です。私の周りの専門家の話を聞く限り、オーナー経営者は会社売却にそれほど抵抗がないばかりか(日本の中小企業にありがちな家族主義経営の考え方は希薄)、PEを有力なビジネス・パートナーとして認識しているようです。
またPEの投資規模、投資先業界、投資スタイル等の各側面での細分化が進んでいます。例えば、私のインターンシップ先のように、クリーンテック分野におけるSmall Cap (*1) の企業のみに投資するPEもあれば、アメリカ中西部の食品業界に特化するPEもあり、各PEの特色がはっきり出ています。従ってアメリカのM&A市場では、各PEが案件に何でもかんでも群がるような状況は少ないのではないかと思います。
実際のところ、インターンシップ先の創業者兼マネージング・ディレクターは、「入札案件には絶対に手を出さない。なぜなら入札は買収価格を押し上げ、目標IRR (*2) を達成できない可能性が高くなるからだ。あくまでも一対一の相対取引が基本で、ニッチ市場の隠れた優良企業を見つけるのが私の付加価値だ。」と断言していました。
1-2. 起業に至るまでのエピソード
知識面の学びでもう一つ挙げるとすると、起業に至るまでのエピソードを創業者から直に聞けたことです。Kelloggに来る以前、私自身、起業を考えたことは全くなかったのですが、Kelloggでスピーカーイベントに参加して起業家の話を聞いたり、Kelloggの同級生が実際に起業したりするのを見て、将来的には自分も起業してみたいなあと漠然と考え始めました。その意味で、創業者の話をじっくり聞く機会を今回得られたことは非常に有益でした。
彼はKellogg卒業後マッキンゼーに入社した時点から起業を念頭に入れており、当初は2年ぐらいでマッキンゼーを辞めて起業することを考えていたそうです。しかしながらマッキンゼーでトントン拍子に昇進して責任ある立場になったことや、起業を考えたタイミングで金融危機が重なったこともあり、結局マッキンゼーを辞めるまでに7年を要したとのことでした。
ただ起業のタイミングが遅れた分、その準備は十分にできたようです。PE業務を行うにあたって、どの業界に投資すべきか、どの業界なら自分の付加価値が出せるかを常に考え、必要なスキル・経験及びネットワークを得るべく、その業界におけるマッキンゼーのプロジェクトに積極的に参画していきました。また彼はメンターの重要性を力説していました。彼の場合、社内外に6-7人メンターがいて、起業にあたってメンターからのアドバイスが非常に役立ったとのことです。
最後に彼が付け加えて、「起業にあたっては運も必要だ。その運を捕まえるためには、常に準備しておかなければならない。それはちょうどサーフィンと同じで、いい風が吹いたときにそれをうまくとらえられるのは、十分に準備ができている人だけだ。」という素晴らしいコメントを頂きました。
2. スキル面での学び
2-1. The McKinsey Way
創業者がマッキンゼーの元パートナーということもあり、彼からマッキンゼーの方法論を多く学ぶことができました。例えばPowerPointの資料を作成する際、ストーリーラインの組み立て方からチャートの作り方に至るまで、事細かなアドバイスを受けました。時には厳しいアドバイスもあったのですが、そのおかげでよりよい資料作成のコツをつかめた気がします。
またこれは必ずしもマッキンゼーの方法論ではないかもしれませんが、「企業の収益性は全てビジネスモデルの巧拙に帰着する」というのが彼の持論で、これに強く影響を受けました。私のような会計畑の人間は、数字から物事を判断してしまう悪い癖があります。例えば、類似企業比較分析で各社の利益率を比較するとき、私は各社の財務諸表を細かく見ていって、収益・費用のドライバーの違いを指摘しました。しかしながら彼は、そういったアプローチでは満足せず、さらに踏み込んでビジネスモデルの面からドライバーの違いを説明するように求めました。これは私がつい見逃しがちな点であったため、はっとさせられました。
2-2. 財務モデリングのスキルの強化
今回のインターンシップを通して、Kelloggで学んだ財務モデリングのスキルを現場で初めて使う機会を得ることができました。初めてにも関わらず、基本的に一人で全てをこなす必要があったため、非常に大変でした。
特に授業で学ぶレベルでは、現場で必要とされるレベルには程遠いことを実感させられました。バリュエーションの前提条件を例にとると、授業では「将来売上は前年売上のX%増」のようにざっくりした前提を置いたりするのですが、現場でそのような粗い前提条件は全く使い物になりません。現場においては、例えば「製品別x地域別」のような複数の分析軸で細かく分解していき、分解された各要素に対して前提を置きます。
逆に授業で学んだことが、現場で活きる場合もあります。例えばCAPM (*3) のリスクフリーレート (*4)。現場においては、「リスクフリーレート = 長期国債利回りのX%」のように盲目的に信じられていますが、「なぜ長期国債の利回りを使うのが適切なのか?」「長期とは何年なのか?」を明確に説明できる人は少ないと思います。その意味において、授業で読む学術文献を通して理論的背景について知ることは、分析を行う上で大きな武器になります。
3. コミュニケーション面での学び
最後にコミュニケーション面で、英語でのコミュニケーション能力の向上を挙げないわけにはいきません。私は大学に入るまで飛行機に乗ったことすらない純ドメ人間でした。それ以降、海外経験は大学時代の交換留学のみであり、英語に対する恐怖感は常にありました(そして今も依然としてあります)。今回のインターンシップを通して向上したのは、単純に英語を話せる・聞ける能力というよりも、英語でうまく質問する能力です。
投資先企業の経営陣に質疑応答をする機会が何度かあったのですが、相手の言っていることは理解できるけれども、質問に対してこちらの期待する回答を得られないということが多くありました。悩んだ末に行き着いたのは、原因は質問の仕方にあり、いきなり質問をする前にその背景や意図を一つ一つ丁寧に説明することが必要だということでした。こう書くと「なんだ簡単じゃないか」と感じられるかもしれませんが、実際にやってみるとなかなか難しいです。説明を多くすればよいという問題ではなく、限られた時間の中で冗長にならないよう簡潔に説明するという技術は、一朝一夕に身に付くものではありません。ただこの点に気づいてから、自分で意識して取り組んだおかげで、ある程度スムーズに質疑応答を進められるようになりました。
以上のように多くの学びがあったわけですが、これはKelloggだからこそ実現できることだと改めて感じます。なぜならKelloggのExperiential Learningのコースでは、学校、学生、企業の三者の利害がうまく一致しているからです。
学校の面でいうと、KelloggはMBAプログラムの4つの柱の1つとしてExperiential Learningを重視しているだけでなく、「Get out of your comfort zone」をスローガンに掲げ、学生のチャレンジを積極的に推奨しています。また学生の面では、職務経験が比較的長い成熟した学生が多く、企業から即戦力として期待される人材が揃っていると言えます。そして企業の面では、スポンサー企業の担当者の多くがKellogg卒業生であることからも分かるように、(優秀なKelloggの学生を文字通りタダで使えるという真の目的があるにせよ)母校の後輩に多くの機会を与えたいという愛校心の強さを指摘せずにはいられません。いずれかの要素が欠けるとExperiential Learningのコースとしてうまく機能しないはずであり、全ての要素が満たされる環境、それがKelloggだと信じて疑いません。
*1 企業規模が1億ドル以上10億ドル未満
*2 Internal Rate of Return の略で、将来期待される収益の現在価値が投資額と同じになるような割引率(内部収益率)のこと
*3 Capital Asset Pricing Modelの略で、一般的に株主資本コストを算出するのに用いられる
*4 理論的にリスクが皆無か極小の資産に対する期待利回りの こと
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