今回は、マーケティングの学問の中でも比較的新しい領域とでも言える分野について紹介したい。といっても私の限定的な知識で書ける範囲になるのだが、「プロセスとしてのマーケティング」というテーマでTechnology Marketingというクラスを、「サイエンスとしてのマーケティング」というテーマでInformation & Technology Based Marketingというクラスを紹介する。
プロセスとしてのマーケティング
「プロセスとしてのマーケティング」は、Technology Marketing分野の研究者としても第一人者であり、学生の間でも非常に人気が高いMohan Sawhney教授が唱えているコンセプトだ。”Technology”という題名を聞くと、「私には関係ない」と敬遠する人もいるかもしれないが、この授業で教えている内容はなかなか無視できないものがある。というのは、そもそもテクノロジー企業におけるマーケティングとして発展したマーケティング手法が、プロセスとしてのマーケティング(”A Process-Based Approach to Marketing”)という新しいコンセプトのもと、多くの業界においても適用されつつあるからだ。
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Mohan Sawhney教授
伝統的なマーケティング活動は、4P(Product/Price/Place/Promotion)をまとめた「Marketing Mix」をターゲット顧客に対して提供することに帰結していた。そこでは、顧客は受動的なマーケティング活動の対象として位置づけられる。しかし、情報技術の発展により、情報が広く流通し、企業と一個人との間の双方向コミュニケーション手段が広がったことで、顧客はより能動的になっている。また、情報技術はパートナー企業との協働も促進した。結果として、企業とパートナー企業と顧客との協働作業の中で、商品開発がなされ、価格が決定され、アフターサービスが行われるというCollaborative Marketingという新しいコンセプトが生まれた。(2005年 -)
例えば、ソフトウェアのマーケティングでは、ベータ版(試作版)が出たところで商品にしてしまう。その後、どこでエラーが起きたか、どこが使い勝手が悪いかなどのフィードバックをリアルタイムで顧客から受信しつつ、商品の修正・開発を続ける。使用方法やエラーへの対処方法などのアフターサービスも、専門知識を有したユーザーがコミュニティサイトで他のユーザーにサービスを提供してくれる。商品のプロモーションも、広告を打たなくとも、ソフトのよさがユーザー間のコミュニケーションを通じて広がる。このような動きは、テクノロジー商品で最初に起きたにせよ、その他の商品に応用可能である。例えば、パスタのレシピの開発にも、ユーザーの知恵を取り込むことが可能である。
この変化により、マーケティング戦略の立案を担っていたマーケターの役割も変化する。教授の例えで言えば、顧客と、パートナー企業と、社内の開発部署等が活発に共生する「生態系」を養うガーデナーとしての役割が重要になってきた。それで、「プロセスとしてのマーケティング」ということが唱えられているのであるが、ここで「プロセス」という言葉は、継続的なサイクルとしての営みを意味している。
この授業では、そのような変化が特に進んでいるテクノロジー業界を主要な題材として、最先端のマーケティング活動の理論フレームワークを学んでゆく。マーケティングプロセス全体を見直してゆくような授業を展開していることもあり、しっかり消化してゆくのがハードな授業だ。教えてくれるフレームワークはどれも非常に実用的である。
サイエンスとしてのマーケティング
マーケティングは、伝統的には、あまり定量的な分析に基づかない学問だと考えられてきたが、現在は、より定量的な科学分析を持ち込んだ分野を構築してゆく努力がなされている。特に、情報技術の発達にともない、マーケティング関連のワークソフトウェアの開発も進み、実際のビジネスの現場で様々なデータをどのように戦略的意思決定に生かすかという問題意識がとても高まってきた。そのような動きを受け、ケロッグにおいても、定量的な分析を取り入れたマーケティングのクラスが増えてきているようだ。一方、このようなクラスを提供している学校は、トップスクールの中でもほとんどないという。(なお、ケロッグではRobert Blattberg教授というこの分野で著名な教授が以前から活躍している。)
Robert Blattberg教授
なお、既に違う文脈で紹介したMarketing Researchや、Pricing, Promotion & Retailer Behaviorもこの分類に入り得る授業だが、ここでは所謂Database Marketing という領域を中心に扱うInformation & Technology Based Marketing(ITBM)というクラスを紹介する。
このクラスは、Florian Zettelmeyer教授という新しい教授が教えているが、とても評価が高い。情報技術の発展により企業が蓄積している「個人レベルの顧客データ」を、顧客の獲得(Acquisition),顧客との関係強化( Development), 顧客の維持(Retention)というフェーズそれぞれにおいて、有効に使うための分析手法を学ぶ。
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Florian Zettelmeyer教授
やや詳しく説明すると、まず、顧客の獲得(Acquisition)については、そもそもどの顧客を獲得対象とすべきなのかということと、どうやって効率的に確度(response rate)を上げるためにデータベースを用いるかということを学ぶ。二番目にの顧客との関係強化 (Development)では、cross selling/up sellingをデータに基づいてどのようにマーケティングしてゆくかの手法を学ぶ。三番目の顧客の維持(Retention)については、どのような顧客が離れがちか、何が問題になっているかを分析する。分析にあたっては、基本的に統計ソフトウェア(STATA)によるモデリングを行う。具体的には、Exploratory descriptive analysis、Decile analysis、RFM analysis、Linear Regression、Logistic regression、Neural Networks 、Factorial designという手法が上記の3つのテーマに沿ってカバーされる。

このシリーズでカバーできなかった内容
さて、マーケティングのカリキュラムについて、3つのブログに亘って紹介してきたが、まだまだ紹介できていない分野がある。第一に、数あるマーケティングの授業でおそらく最も人気があるMarketing Strategyのクラスでは、特に競合企業をより意識しながら、新市場開拓、既存市場への新規参入、更には市場シェアの防衛といったテーマを、グループシュミレーションを使いながら学ぶ。第二に、セールスフォースマネジメントの分野は、その分野で非常に高いレピュテーションを持っているZS Associateの創設者であるZoltners教授が教えている。第三に、別途ブログがあるConsumer Insight Toolsなど、より消費者への理解を深めるための分析を学ぶためのコースがある。よりマーケティング職志望者向けと言えるだろう。最後に、業界別に応用したクラスがある。Sports MarketingやBio-Medical Marketingなどが該当する。カバーできなかった内容については、後進の在校生がいずれ紹介してくれるのではないかと期待しつつ、このシリーズを終えたい。
長文、最後までおつきあいいただきありがとうございました。
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