マーケティングの総論を履修した後は、「マーケティングの4P 」のそれぞれの分野(Price/Place/Promotion/Product)を深堀してゆくクラスを取ることが考えられる。トップビジネススクールといっても、このようにマーケティングの各論を掘り下げてしっかり学べるクラスが揃っていないということも聞くことがあるが、個人的には、これらの各論の授業から、非常にクリティカルな論点を学ぶことができた。
STP分析でPositioningを規定した後は、実際に顧客に対して提供するMarketing Mixというものを考える。Marketing Mixの内容は、「4”P”」という概念で整理することが多い。すなわち、「顧客に対して、どこで (Place)、どういった商品を(Product)、いくらの価格で(Price)、どう訴求するのか(Promotion)」ということだ。以下、Marketing ChannelとPricing, Promotion and Retail Behaviorという二つの授業を紹介する。
- Place (”Marketing Channel”)
Marketing Channelの分野においては、ケロッグにはこの分野を理論化させたLuis E. Stern教授という権威がいる。現在はEMBAのクラスを教えているのみのようだが、Richard Wilson教授、Eric Anderson教授など、後進の教授が揃っている。
Luis E. Stern教授
顧客が支払う対価(Price)は、商品(Product)そのものの価値だけではなく、マーケティングチャネルが提供する価値 (Service Outputと呼ばれる)に対するものと考えられる。例えば、同じ消費者が同じコカコーラ缶に対して、自動販売機、駅前のスーパー、郊外の大型ショッピングセンターのそれぞれで買う場合に、全く異なる値段を払ってよいと考えている。このチャネルが提供する価値”Service Output”と呼び、具体的にはSpatial convenience、Waiting or delivery time、Product variety、Customer service等々を含んでいる。
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Richard Wilson教授
Marketing Channelの問題は、現在の事業環境において、非常に戦略上の重要性が高くなってきている。その理由を二つ紹介したい。まず一つ目は、膨大な商品の数が市場に投入される今日、商品が提供する価値 (What)のみでなく、どのように商品を提供するか(How)までを含めた、包括的なExperienceをマネージする重要性が極めて高くなっていることだ。このことは、一つには、顧客のセグメンテーションをするにしても、Productそのものに対するセグメンテーションだけではなく、チャネルが生むService Outputに対するセグメンテーションを併せ持って分析しないと、STP分析が全く不十分となってしまうことを示唆している。
二つ目に、アライアンス、M&Aを含めた企業連合の視点がある。すなわち、このService Outputをマネージするためには、一企業間の競争観から、Manufacturer, Wholesaler, Retailer、その他Logistics企業を含めたVertical Chain 間の競争観が非常に重要となっている。例として家具市場を挙げてみよう。世界最大の家具リテール業者であるIKEAは、消費者に商品バラエティ、多様な家具コーディネーション例といったService Outputを提供するため、広大な店舗で膨大な在庫を抱えている。IKEAに納入する家具製造業者は、あまり在庫を持たず、効率的な製造に集中する。対照的に、England Inc.という家具製造業者は、自らが在庫を抱え、フレキシブルな製造プロセスを持つことで、納入先の中小規模リテール業者がさほどの在庫なしでバラエティに富んだ商品を提供し、更にバラエティ一部カスタムメイドの商品を提供している。(商品は製造元から配送される)これら二つの家具チェーンの例からわかるのは、リテール業者と製造業者が協力し、役割分担することで、Vertical Chainとしてどう価値を提供するかが問われているということだ。このような戦略的思考を求められる状況は今後ますます増えてくると言われている。
一方で、SupplierとDistributerとの間の価格交渉の争いは厳しさを増す傾向にある。多くのリテーラーは、いかに1円でも仕入れ価格を下げるかに凌ぎを削っている。そのような本質的に敵対的な関係をマネージしつつ、どのようにWin-Win関係のビジネスデザインアライアンスを強化するかが挑戦である。(成功例として、P&GとWal-Martの連携がある)もちろん、企業によっては垂直統合に向かうこともありうる。(例えばAppleのリテールショップ進出)
なお、マーケティングチャネルをオペレーションの視点から見つめたのがSupply Chain Managementだ。例えば、どんなチャネル戦略も、コストを抑えられなければ不十分だ。ケロッグのSupply Chain Managementは、Chopra教授が教えている。著名な研究者であり、優れた教育者でもあって、さらに現在副学長を務められている。併せて学ぶことをお奨めしたい。
―Pricing&Promotion (“Pricing, Promotion and Retailer Behavior”)
Pricingについては、ミクロ経済学者の間でも一つの大きな研究の対象であるため、ケロッグにおいてもミクロ経済系のPricing Strategyのクラスもある。また、ミクロ経済学者系の戦略論の授業でもPricingは扱われる。一方、マーケティングにおけるPricing理論はまだ新しいのかもしれないが、個人的にはこのマーティングベースの授業の方が好きだ。なぜなら、経済理論だけではなく、実用的なデータ分析まで踏み込むし、一方で、科学的な分析に加えて、消費者行動論をもしっかりと踏まえて議論するからだ。ケロッグではPricing, Promotion and Retailer Behaviorというクラスでカバーされる。
Promotionには、メーカーが消費者に対して行うもの、小売業者が消費者に対して行うもの、メーカーが小売業者に対して行うものの3つの種類がある。Advertising Strategyのクラスが一つ目をカバーしているといえるだろう。二つ目と三つ目は、やはりPricing, Promotion and Retailer Behaviorのクラスでカバーされる。
さて、MBAのPricing, Promotion and Retailer Behaviorのクラスを担当しているのがEric Anderson教授だ。まだ比較的若いようだが、この分野の研究で近年とても高い功績がある。更に、実務に対する知識が深いし、ビジネスとしての分析の落としどころをよく理解していて、ビジネスパーソンとしても絶対に成功したに違いないタイプだ。教え方も非常にうまいし、内容も実際の仕事につなげられるものばかりだ。
このクラスでは、Pricingについて最も多くの時間が割かれる。Pricingについては、現在も多くの企業が、「勘」に基づくという非科学的な決定や、理論的には正しいと言えないコストに一定のマージンを加える方法などに頼っている。しかし、情報技術の発展にも支えられ、今まさに業界トップの消費財・リテール企業を中心に、より科学的な価格決定の方法が模索されている。このクラスで扱う価格決定は、まさにそれら企業が考えている内容をカバーする。STATAという統計ソフトウェアを使った価格決定のモデリングが一つの大きな内容だ。
Eric Anderson教授
その他、この授業は、消費者心理・行動についても学ぶ。例えば、Promotionに関する消費者心理・行動をカバーする。面白いのは、B to Cの世界では、セール時に売り上げを伸ばすのは価格引下げの効果ではなく、Promotionの効果の方が圧倒的に大きいことが多いという事実だ。ここで言うPromotionとは、セールという表示、$29.99というような「9」という数字の効用、目玉商品の「お得感」が他商品への波及効果を持つことなどだ。ほかに、ウォルマート型のEveryday Low Priceや、その対極にあるHi-Lo Price(セールを設ける売り方)のメリット・デメリットなどもカバーする。
そのような消費者心理・行動に関する実証研究を学んだうえで、Promotionの効果とPricingの効果両方を反映させるよう統計モデルを再構築する。演習において扱うデータは、実際のビジネスのデータである。
科学的なデータ分析課題が多い一方で、このクラスではアートとサイエンスの両方が重要であるということが強調される。また、複雑で時間がかかる分析をする一方で、電卓でできる分析の有効性も含め、どうやって短時間で実務上の決断に必要な分析をするかも教えられる。ここがまた実用的で素晴らしいと思える点だ。
(続く)
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