どんなに素晴らしい戦略も、組織なしには実現しない。事業環境が目覚ましく変化するなか、企業は環境変化に応じた戦略の修正・変更を、スピードを持って行わなければならない。ここで重要なのは、戦略が変われば組織も変わらなければならないということである。すなわち、普遍的に正しい組織というものは存在しないが、ある特定の事業環境と戦略を前提にすると、あるべき組織が規定されてくる。環境対応のボトルネックとなるのは、新しい戦略の立案ではなく、組織の問題であることが多い。
そのうえで、これは私なりの整理だが、環境と戦略の変化に伴う組織変革が難しい理由には、一つには、経営者が組織デザインに対する理解の問題、次に、一般に”Organizational Behavior”(リーダーシップやチームワークを含めた、人と組織の行動論)といわれる問題がある。
後者の系統では、必修授業であるLeadership in Organizationsのほか、人気が高いコースとしては、Managerial Leadership、Power In Organizations、Leading the Strategic Change Process等のクラスが挙げられるだろう。
ここでは、基本的に前者の組織デザイン系統の分野を紹介する目的で、私が重要だと思った組織を考えるための3つの視点を紹介したい。

Complementarities(補完性)
ケロッグの組織論の分野の基本となるのがStrategy & Organizationというクラスだ。複数の教授が教えているが、Matouschek教授の人気が高い。この授業は、組織の問題をミクロ経済モデルを多用して考えてゆく。実はこのクラスを受講してしばらく、組織という生き物のようなものを、無機的な経済モデルで分析することにとても抵抗感を感じた。しかし、授業の半分近くが実際のビジネスの実例を扱うケースベースで行われ、そこで経済モデルを使った視点を持ち込んだ説明が有効であることを理解することができた。
この授業の最初に学んだ概念で、紹介したいのが” Complementarities(補完性)”だ。すなわち、Aの価値がBの存在により高まる、Bの価値がAの存在により高まるという状況にあるとき、AとBにはComplementaritiesが存在するという。成功している会社の組織は、組織を構成する各要素が相互に補完状況にあるものである。例えば日本の自動車メーカーの事例だと、長期雇用、多能工の育成、信頼ベースの関係構築とコミュニケーション、効率性の追求等々の組織の属性が、相互に各々の価値を高めている。一方で、別の製造業において、環境や事業の性質が自動車製造と全く異なる状況におかれた会社があるとしよう。その会社の成功している理由は、日本の自動車メーカーとは全く別の組み合わせを見つけていることだろう。例えば、強力なリーダーシップ、短期雇用、自由な社風、創造性の重視という組み合わせでのComplementaritiesの発揮だ。
このような、組織のComplementaritiesという性格が示唆する重要な点がいくつかあるのだが、そのうち一つが、「属性一つを変えるなら、ほぼ全ての属性を変えなければ経済性に合わない」という点だ。このことを理解するためには、それぞれのComplementaritiesのセットを一つの山と考えてイメージするとよい。ある成功企業が、組織のComplementaritiesの効果自体は薄れていないものの、戦略変更とともに、組織を変えないといけなくなったとしよう。最初は、組織として一つの山の頂上から離れれば離れるほどComplementaritiesが崩れ、組織のパフォーマンスが低下する。しかし、山を下るということは、次の山に登るプロセスである。さらに思い切って頂上から離れてゆくことで、次の山の頂上に到達できるのである。失敗は、山を下るということは正しいプロセスであるにも関わらず、組織のパフォーマンスが落ちてゆくなかで、その正しい変化を誤りだと見なすことである。
このことはまた、組織の性格を極端に繰り返し変更している企業が、必ずしも非合理的なことをやっているわけではないことを示唆する。例えば、企業はその成長過程、或いは事業環境の変化に伴い、分権型の自由な組織と中央集権型の管理が厳しい組織を行ったりきたりする。何とも経営者の気まぐれにつき合わされているように思えるが、実は、Complementaritiesを重視するなら、中途半端に組織の一部を変えることができないということなのかもしれない。
Congruence(調和) Model
さて、Complementaritiesの概念を理解すると、冒頭に述べた事業環境と戦略と組織の間に整合性をとるということのエコノミクスがより理解される。環境、戦略、組織という枠に、更に、組織の各要素を含めて整合性を考えるのがCongruence Modelだ。すなわち、組織の要素は、People(ヒューマンリソース)、Architecture(組織構造)、 Routine(情報伝達、意思決定等の仕方)、Culture(企業文化)という4つの要素(頭文字をとって「PARC」と略される)に大きくわけられることが多いが、これらの要素が相互に調和するようマネージされなければならない。

このCongruence Modelは、必修の授業であり、Leadership in Organizationsというクラスでカバーされる。複数の教授が教えているが、私はAdam Galinskyという人気の教授から学んだ。この授業は基本的には前述した”Organizational Behavior”の系統の総論的なクラスである。ケロッグ入学後最初に履修するのだが、今見直してみるとまた新しい視点からの学びがある。
組織デザインの学びを更に進めるためには、このPeople、Architecture、Routine、Cultureという領域をそれぞれ掘り下げるという手があるだろう。ケロッグのクラスとしては、Human Resource Management、Designing Organizational Systemsといった授業が挙げられる。前者はコース名から分かるようにPeopleに関する授業である。後者はArchitecture、 Routineという点にフォーカスを充てるが、「組織図」の描き方、マネージの仕方を学ぶようなイメージを持っていただければよいだろう。

Industry Life Cycle / Company Life Cycle
最後に、業界のライフサイクル、会社のライフサイクルという視点は、将来訪れる変化の性質と、それにあわせた戦略・組織デザインを想定する視点を与えてくれる。このライフサイクルのパターンは、多数の会社を対象にした実証研究によって、ある程度形式化されている。業界のライフサイクルは、Birth, Growth, Shakeout, Maturity, Declineの全5段階に分けることができる。そのうえで、Birthの段階では、イノベーションのスピード、高技能労働者が重視されるが、次のGrowth段階になると大量生産や地域拡大のために標準化やプロセス面のイノベーション(カイゼン)が重要になってくるというように、組織の特徴と課題が変化してくるといったことが論じられる。
個々の会社についても似たようなライフサイクルが提唱されている。初めはイノベーションを重視して成功した新興企業も、会社の成長につれて、オペレーションの効率性、マーケット拡大、肥大化した組織の歪みの解決といった異なる課題に次々に直面する。そして、その段階ごとに組織デザイン(Informal, Centralized & functional, Decentralized & geographical等々)を変化させてゆく必要が生じる。
なお、「アントレプレナーシップ」系統の授業は、会社のライフサイクルの初期段階の戦略・組織課題に重点を置くものだろうが、そこでの成功法則も、業界や会社が発展してライフサイクルのステージを進むにつれて当てはまらなくなる。このことは自明のようであるが近年失敗する新興企業も多いことから、しっかりと理解しておきたい点だ。
なお、このライフサイクルのフレームワークは、Organizational Behavior系統の授業で学んだものだが、組織デザインを考える視点としてここでは紹介させていただいた。
(続く)
Class of 2009 AT

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