Kelloggの哲学のうち、入学以来特に強く共感しているものの一つに、"Get out of your comfort zone"(自分が心地良い/楽だと感じる領域を敢えて飛び出し、新しいことにどんどんチャレンジして、自分の幅を広げよう、変化/成長しよう、そしてそのプロセスを楽しもう)というものがある。入学式の祝辞で学長のDean Jainが言っていた言葉。その「Get out of my comfort zone」活動の一環として、夏休み中にひとつ面白い体験をした。「NBA選手育成プログラム」の運営ボランティアという仕事。
Kelloggは数年前からプロスポーツ選手向けのビジネス教育プログラムという新しい試みを行っている。その一つとして今年からNBA(National Basketball Association)選手向けビジネス/リーダーシップ育成プログラムを実施することになったとのこと。NBAのオフシーズンである夏休み中に、自ら志願し、さらに選抜された選手十数名を対象として、KelloggのExecutive MBA用の施設であるアレンセンターで行われる合宿形式のプログラム。春頃に、Sports Business Club経由でこのプログラムの運営サポートボランティアの募集があった。
軽くスポーツバ○の気があり、元バスケ部でNBAのファンの自分としてはこれは外せねえということで、ボランティアに立候補させて頂いた。ちなみにこのプログラムは全米のMBAの中でもKelloggしかやっておらず、たまたま今年からこのプログラムが始まったという偶然の巡り会わせで参加させて頂くことが出来た。受験時にこれを知っててKelloggを受けた訳ではないが、結果としてなんともラッキーな御縁だった。
'ビジネス'スクールの枠の外へ
ちなみに、一瞬余談だが、Kelloggはトップビジネススクールの中でも特に、戦略的な意思を込めて、ユニークな新しい試みをいろいろやっているのだが、その一つの柱がこの手のビジネスの世界以外のフィールドで働くリーダーたちに向けたプログラムの拡充だ。プロスポーツではNFLとNBA、また、米国政府系ではFBIやCIAも顧客らしい。こうやっていろんな分野にネットワークを張り巡らせて行く戦い方は、MBAがますますコモディティ化し、いろんな分野の垣根が低くなっている今の時代のビジネススクールの競争戦略としては非常に賢いと個人的には思う。
学校代表、プロとしての自覚
プログラムの前の週に今回のプログラムの運営責任者であり、Kelloggを代表する看板教授の一人であるSteven Rogers先生から指導があった。この先生は、マクドナルドでパートタイムで働きながらHBSを卒業したという逸話の持ち主で、卒後Bain & Company、数回の起業、売却を経て現在はいくつかの企業のBoard Memberに名を連ねる傍らKelloggで教鞭をとる実務肌の辣腕教授。すげー気合が入っていて、緊張感があって、でも時折ぶっ飛んだジョークでみんなを笑わせてくれる。皆に慕われ尊敬される親分肌の先生だ。秋学期はビディング(コース選択の競り制度)で大枚叩いて彼のEntrepreneur Financeの授業を取ったので、今から楽しみでもある。結構厳しいらしいけど。
と言う訳で、彼からのインストラクション。
「このプログラムは君たちのようにKelloggのために行動してくれるボランティアがいてくれて初めて成り立つ。わざわざ夏休み中にも関らず、インターンもあって大変な中貴重な時間をボランティアのために割いてくれて有難う。
但し、やるからには強い自覚を持って行動してやって欲しい。君たちはKelloggの代表として、プロとしてお客様に接するころになる。決してミーハーな行動、サイン求めたり、写真を取ったり、個人的に仲良くなることを自分から求めたりしないこと。
授業で使う教材は事前にきちんと読んでマスターすることは当然。トレーニング系の授業では担当の選手一人ひとりが一つの間違いもなく問題をクリアするよう責任を持ってサポートすること。一人の落ちこぼれも生んじゃダメ。グループディスカッションのファシリテーョンに於いては、彼らの緊張を解いてあげ、スピークアップしてもらうこと。答えを言うことなく、相手を不快な気持ちにさせたり、恥をかいた様な気持ちにさせることなく、上手い質問を投げることで、背景にあるロジックを考えてもらったり、抜けている視点を指摘することできちんとファシリテートすること。」
(当然のことながら)半端な気持ちで出来るものじゃないなと思い、気持ちが引き締まった。
Dean Jain
さて、当日。思いもしない、ちょっとした嬉しい出来事があった。プログラムの冒頭で、学長のDean Jainが部屋を訪れ、選手達に向けてスピーチをしてくれたのだ。入学式以来なかなか話をする機会も少なく、久しぶりに彼の話を聞けてラッキーだった。いつもと同様、彼の話は非常に印象的でinspirationalだった。今のKelloggの戦略の一面を良く表していると思ったのでちょっとご紹介。(あくまで僕自身の理解)
「Kelloggが考えるリーダー像は、個人的なキャリアや人生の成功にとどまるのではなく、そこからもう一歩先の、いかに世の中にSignificant impactを与えていける人。Kelloggはそういうリーダーを育てる場所だし、ここで育つリーダーたちには、それを行う社会的責任を負う。
そして、これからのリーダーはそれをボーダーレスに行っていかなくてはいけない。一つは、ビジネスというボーダーを超えて行くこと。Non-profitも含めた、あらゆるフィールドでもインパクトを出して行くこと。そしてもう一つは、国境という枠を超えて行くこと。アメリカはもちろん、ひとつの国に留まることなく、グローバルにインパクトを与えられるリーダーにならなくちゃいけない。
リーダーシップの最高の学びの場はスポーツだと考えている。だからこそ、こういった形でプロスポーツを積極的に受け入れ、スポーツマネジメントの授業も拡充している。また逆に、ビジネススクールで学ぶリーダーシップはスポーツの世界に行かせると思うし、スポーツ選手が直接ビジネスに関るケースも増えてくる中で、ビジネス教育として貢献出来る部分も多いと思う。短い期間ですけど、しっかり学んで、成長して、楽しんで下さいね!」
とまあこんな感じだったと思う。やっぱりこの人の話はいつ聞いても心に刺さる。深い思慮と、高い視座で、遠い未来まで見渡した上で語られるビジョンは本当に聴く人の心をグッと掴む。多くの同級生がカリスマ宗教家みたいだと冗談で言うが、いい意味でピッタリの形容だと思う。冬に交換留学予定のタイのSasin Business SchoolでDean Jainの教えるクラスが開講されることになっている。Kelloggではほとんどもう授業を持つことの無い彼の授業を受けることが出来る貴重な機会なので、是非とも取ろうと改めて思わされた。
憧れのNBA選手との対面
いよいよトレーニングが始まった。当然名前を挙げることは許されないが、テレビで見る、雑誌にでかでかと写真が載っている、スタジアムで遠くから見ていた憧れの選手たちが目の前にいる。(つうかでけえ...そしてお洒落でカッコいい...)普通にドキドキしてしまった。
が、話してみるとそりゃまあ普通の兄ちゃん(またはおっさん)。全くArrogantな感じも無く、気さくでナイスな人たちだった。
最初は嬉しくて興奮しちゃったが、いざ授業が始まってインストラクターとしての仕事が始まり、お互い内容に集中し始めると、完全にクラスルームの一場面、生徒とインストラクターという感じで、お互い変な遠慮や気兼ねは一切無くなった。
どういう選手達か?
Rogers先生曰く、彼らはNBAのリーグの募集に自ら応募してきた選手のうち、リーグが最終的に参加を許可した選手達とのことだった。従って目的意識や学習意欲は高いと思われるとのこと。また、自己紹介を伺ったり、経歴を見た感じ、比較的ベテラン選手の方が多かった。自己紹介でも、「自分は10年以上NBAで選手としてプレーしてきており、そろそろ引退を考える時期なので、少しずつ不動産投資のビジネスに軸足を移しつつある。今回の機会はその辺のことを学ぶいいチャンスだと思ってます」といったコメントもあった。
実際にプログラムの内容も、エンジェル投資(富裕な個人資産家によるアントレ投資)の話が結構多い。彼らのもとにはいろんな親戚や友人や知らない人が面会を求めて来て、「こういう儲かる話あるから、こういう夢のある話があるから、投資して」とリクエストを投げかけて来ることが多い。基本的には、如何にNOを言うか、投資の判断をするにしても、どうやって本当に筋のいいものを見分けるか、損をしないためにリスクをヘッジできる立て付けにするか、といったpracticalな話を授業ではしっかり扱っていた。
なるほどねー。普段スポーツニュースや雑誌では知ることの無い選手達の人生のリアルな側面が垣間見れて興味深かった。
このプログラムの超過密なスケジュールを見せてもらった際に、「うっわスゲエタイトで大変っすね!」という話をしたら、「いやいや、プレーオフ決勝戦よりましだから」と仰っていた。ああ、やっぱり超えぐいのね。プレーオフ。なんて一幕も。
選手の方からの学びと刺激
インストラクターの仕事を通して、思いがけず、選手の方から素晴らしい刺激をたくさん頂いた。
授業の中で、HPの関数電卓を使い、ファイナンス系の計算をやる練習をしたのだが、僕が担当した選手の方は、ビジネスパーソンとしてもかなり優秀な部類に入る方だと感じた。理解力も計算力もスピード感も高いレベルにあったし、一を聴いて十を知る系で、「ということはこういう計算をするためにはこうだよね」「こういう使い方できるともっと便利じゃない?」と自らどんどん試してものすごい速度で習熟されていた。「ってことはさ、実際の俺らの複数年契約にNPVを適用するとさ、こういうことだよね」とか、「実際こういうベンチャー投資の話が複数持ち込まれたときは、原則IRR(Internal rate of return)で見るんだけど、こういう例外的なケースではこういう見方をした方がいいよね?」と積極的に訊く事で、常に教室での学びをリアルワールドにいかにアプライするかを意識されていた。
この学習能力と勤勉さはものすごいと感じた。やはり、世界で最もコンペティティブなスポーツの世界で一流になる方だけあって、単純にスキルや身体能力が高い、才能がある、というだけではなくて、こうやって、頭も切れたり、自ら主体的に成長を刈り取って行く能力/習慣がある人たち、人間としてトータルに強い人たちも多いのかもなと感じた。(少なくとも僕が接した選手の方々を見る限りでは)
その後ケースディスカッションをファシリテートさせて頂いたのだが、ここでも同様にビジネスパーソンとしての高いポテンシャルを感じた。ケースを読むのも鬼のように早いし、ポイントを頭にバチッと入れて、かなりいいコメントをされていた。最後の、「ボランティアで手伝ってくれてありがとな!」と言う笑顔と握手が本当に爽やかでカッコよくて、マジで痺れた。改めて彼の大ファンになってしまった。スター選手で周りからちやほやされたりしてるだろうに、全く尊大なところも無く、真摯に謙虚に貪欲に学ぶ姿勢が印象的だった。
純粋にファンとしてその選手のことがますます好きになったし、何と言っても、自分の領域から踏み出して新しいことに積極的に、主体的にチャレンジする選手の姿を見て、自分の行き方を作る上で非常にいい刺激を頂いた。
「迷ってもとりあえずやってみる」ことの意味
とまあ、そんなこんなで無事運営ボランティアの仕事を終えることが出来た。改めて、素晴らしい体験をさせて頂いた。
最後に、この体験を通じて、ものすごい初歩的ながら、小さな気づき(というか再認識)があったのでクイックに。
実は今回、ボランティアの応募があった段階で、かなり迷った。
もちろん、気持ちとしては絶対にやりたい。せっかく夏休みもインターンの関係でEvanstonにいるし、憧れのNBAの選手達と会えるし、Kelloggのために貢献できるし、看板教授であるSteven Rogers先生と絡めるし、何といってもまたと無い素晴らしい経験になると思ったから。
だが、実は、正直な話、最初は、本当にやれるのかどうか自信が無い自分、不安な自分をちょっとだけ感じていた。自分は帰国子女ではなく、日本でしか生活したことがない、所謂「純ドメ」。入学から1年が経ってそれなりに英語でのコミュニケーション力は改善したものの、それでも尚アメリカ人の同級生並みとまでは言えない。
3割がインターナショナル生で、国際性の高いKelloggのクラスルームと違い、「インターナショナルだから」という理解は存在しない局面。あくまでKellogg代表のインストラクターでしかない。実際に他のボランティアはみんなアメリカ人だった。一人で英語で選手達の議論をファシリテートできるんだろうか。悲惨なことにならないか?役に立たないかも知れないし、学校や先生に迷惑を掛ける事になりゃしないか?我ながら柄でもねえなと思いながらも、ちょっとだけ二の足を踏んでいる自分を感じていた。一瞬、「やっぱり自信が無いので辞退させて下さい」というセリフが頭をよぎった。
それでも、「いや、そんなこと言ってたらいつまでも何も出来ねえよ。ここは騙されたと思ってやって見ようぜ」と自分で自分を無理矢理説得して踏み出した。
やってみたら、大きな問題も無く機能出来た。思ったよりも大丈夫だった。そして、その心理的な壁を越えて、成し遂げるというプロセスを踏んだことで、小さいながらも自信になった。極めて小さな一歩ながら、Get out of comfort zoneの成功体験をもう一つ積めた気がする。「どうしようかな、やろうかな、出来るかな、不安だな、でも、やりたいな...」と迷っている状況で、「ま、とりあえずやってみようぜ!死にゃしねえし!」と無理やり一歩を踏み出す習慣と勇気がちょっとだけ強化された気がする。(こんな小っちゃな話を偉そうなことを申し上げてしまい大変恐縮ですが...本人的には結構真剣に迷ったのです...)
人生の中ではもちろん、Kelloggの中ではこの手の小さな逡巡/躊躇と、やる/やらないの判断がかなりの頻度で訪れる。極端な話授業中の発言一つでもそうだ。だが、何となく、これまでの経験から、こういうケースで迷った挙句踏み出した場合、10回中9回は、「やってよかった」となっている感触がある(バイアス掛かってるかな?)。ほとんどの場合当初引っ掛かっていた不安も、「思ってた程じゃなかった/結局何とかなった」という結果になっている印象がある。
そもそもKelloggでのチャレンジなんて文字通り失敗したって何も失うものなんて無いし、プロフェッショナルとしてお金を頂く環境での実戦の感覚からするとちゃんちゃらおかしい話で、失敗なんてしても痛くも痒くも無い訳で、もっと言うと若い頃なんてガンガン失敗した方がいいとも思うし。こういうリスクフリーな環境の中で、いろんな方向に踏み出す練習をするのは正にMBAならではの特権だと感じる。
いずれにせよ、本当にやってよかった。こんなちょっぴり非日常な体験が出来るもの、MBAならでは、そしてKelloggならではだと改めて実感し、残り一年間、引き続き頑張って踏み出し続けて行こうと思った。
IM Class of 09
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