Harry Kraemer先生のリーダーシップの授業のご紹介、三本目。
の前に、先日、春学期の最終週に行われた07-08年度年間ベスト教授賞の表彰式で、このKraemer先生が遂にMVPを受賞した。(その際の記事はこちら)
個人的には、学期の最後の授業の際に提出する「生徒から先生への通知表」で、今まで書いたことが無い程の高い評価を記入しながら、多分他の学生も高い評価をしてるんだろうなー、そうするとこの先生近いうちにMVP取っちゃうかもなー、と薄々感じていた。でもまあ、まだ教授になって数年だし、他の経験のある豪華教授陣を差し置いて、まさか今年取っちゃうってことは無いだろうな、とも思っていた。それだけにちょっと意外な結果。今学期の受講生宛に送られたメールにてご本人曰く、ご自身も全く想定外でショックを受けたとのこと。
(余談だが、これに伴い来年以降ますます人気が出てしまい、彼の授業のBidding point〔授業選択に於ける競り制度で学生が支払う通貨〕が今以上に高騰してしまうんじゃないだろうか。今年無理矢理取っといてラッキーだった...)
Kelloggの実戦志向
しかし、彼みたいに、ずっと実業の世界にいて、しかも現在もシカゴを代表するバイアウトファンドのバリバリ現役エグゼクティブで、最近Academicの世界に入ったような方が二足のわらじベースで授業を持つことが許され、素晴らしい授業を提供してくれる。しかもそれがきちんと評価され、100%アカデミックに専念していて、論文や本の執筆によりアカデミックの世界ではより認知されている教授たちを差し置いてベスト教授賞を取ってしまう。
前回ご紹介した、昨年MVPのJulie Hennessy先生も、CEOでこそないが、General MillやKraftといった名門消費財メーカーでMarketing managerとしてがっつり経験を積んでいる。この辺の、頭でっかちじゃない、現場叩き上げの先生たちが積極的に起用され、アカデミックの世界での経験の長さとは関係なく評価されるという、この公平さ、柔軟さ、実戦志向の強さもまたKelloggならではの尖りであり素晴らしさだと思う。
(個人的に、座学としての『お勉強』が大っ嫌いで、体や手を動かしたり、現場が大好きで知的好奇心の対象も完全にそっちに向いてしまっている僕みたいな人間にとっても非常に合っていると感じている。)
Kelloggがトップスクールの中でも特に、プロフェッショナルファームだけでなく事業会社やノンプロフィットからも高く評価され続けている理由はこの辺にもあるんじゃないかとも思う。
卒業後に振り返って
わからないけど、自分はまだ一年目が終了したに過ぎないが、現時点の仮説では、恐らくこのKraemer先生の授業が、自分がビジネスの世界から引退するときや死に際に振り返って「Kelloggで受けた授業の中で長い目で見て最も人生やキャリアに役に立った」と言うことになる授業なんじゃないかと思っている。それだけ本質的で価値のある授業だった。
てな訳で、再び彼の授業のご紹介。
前回も申し上げたが、この科目では、毎回ゲストスピーカーが来てリーダーシップについての話をしてくれる。そして、学びや刺激の半分は、これらのゲストスピーカーサイドから生まれている。その中の一つを今回はご紹介。
Effective Communication
「リーダーシップの8つのレンガ」の一要素、Effective Communicationの回のゲストだった、Michelle Buck教授の授業。
この授業では結構面白いフォーマットで授業が進められた。これから彼女の授業を受講される方もいらっしゃるので、ネタバレを避けてあまり詳細は語らないでおくが、リーダーシップに関するある実験を行った。それを通してリアルな人間模様を見られて、個人的には相当面白かったという話。
実験
授業の最初に、突如、クラス70人が三つのグループに分けられる。エグゼクティブグループ3人。ミドルマネジャー15人、その他の一般社員。そして、おのおのに実際の会社と同じような権限が与えられ、会社としての共通のミッション(これがまた曲者)が与えられ、グループごとの部屋に散っていく。約30分掛けて、お互いにコミュニケーションを取りながらミッションを達成すべし、というもの。
ちなみにこの話を最初聞いたとき、ん?何かデジャブだよと。こういう実験見たことあるなーと思った。ああ、あれだよ!以前見た映画。「es(エス)」。70年代にスタンフォードで行われた監獄シミュレーションの社会心理学系の実験。20人の被験者を看守と囚人に分けてシミュレーションをしたところ、実験であるにも関わらずリアルにその役割の心理や感情を持ち、行動を取り出したというあれ。ちなみに映画では実際に殺し合っちゃうという設定。恐ろしや。いったいどうなるんだろ。ワクワク。
僕自身はミドルマネジャーグループに入ったのだが、これまた面白い経験だった。エグゼクティブたちはまず我々の同意を得た上で、社員たちに連絡を取りたいとミドルマネジャーの部屋を訪れるのだが、そのタイミングで平社員代表の数名がやってきて、自分たちとしてはこういう意見があるんですが、となり、ちょっとした議論に。その間に取り残された平社員たちは何が起こっているのかわからず、はたまた興味を失い、部屋の外に出てだべったり、ネットサーフィンを始めたり、トップエグゼクティブの悪口を言い始めたり。なかなか大変なことになりながらも、最後はエグゼクティブが三つのオプションを提示し、全社員で多数決を取って結論を出すということが起こった。ま、皆それなりに納得し、それなりに満足し、という感じに見えた。
実際に実験が終わった後に、各々3つのグループから感想を出し合う。
トップは、「物凄い緊張感と責任感があって、時間が無くて焦った」、「皆を不安にさせちゃってごめん...」、「なんか偉くなった気分で気持ちよかった」など。
ミドルは、「自分たちの存在価値って何なの?と思った」、「板挟みになって辛かった」、「勝手なことして直接トップと話そうとする平社員がいてむかついた」などなど。
平社員たちからは、「俺は結構Comfortableだったよ」、「見てて、トップも大変やなーと思ってかわいそうになったよ。」というものから、「言いたいこと何一つ言えなくてやる気無くした」とか「何が起こってるか全然分からなくてめっちゃイライラしたわ」とか、「つか、ぶっちゃけどうでも良かった」とか「先生これ時間の無駄だったと思うんすけど」という意見までさまざま。
これ、めちゃくちゃリアルな会社の縮図だなー...と思ってしまった。たった30分の出来事なのに、組織としてやるべきことが与えられ、各々のポジションと権限が与えられるだけで、現実の会社と同じような問題が一瞬にして再現されちゃったのだ。何ともまあ不思議な体験だった。
とまあ、こんな実験をやった後に、先生から、そして我々学生からの議論という形でいろんな学びを腹落ちさせていった。いくつか印象に残ったものを紹介させて頂こうと思う。
...の前にちょっとだけ前置き
そして、ごめんなさい。これも最初に断っておきますが、どれも、こうやって字面にして読むと、「んなもん当たり前じゃねえか。何をこんなことで大騒ぎしてんの?」、「現場でリーダーやってりゃそんなの3日で気付くわ」、「わざわざんなもん勉強してるの?」という感想を持たれる方もいらっしゃるかも知れない。自分がMBAに来る前にこれを読んだらそう思ってたかも知れないなとも思う。
また、前回も申し上げたが、自分自身、リーダーシップの本質的な成長は実戦の中でしか生まれないと信じている。
それでも尚、やはり、結局リーダーシップとはそういう類のもので、当たり前の原則をきちんとやり切ることこそが本質であり、何ら目から鱗なカッティングエッジなコンセプトがあったり、それを知ることに価値があるという種類の分野では無いと思う。
そして、こう言った形で、授業での体験や教授自身の実業での経験を元にリアルに学んでいく、間接学習していくというプロセスには絶対に価値があると思う。もちろんそれ「だけ」では絶対にリーダーシップは学べないのだが、前後の長い実践のプロセスの中で、2年間だけそういう期間を噛ませるからこそ意味があると信じている。
別の言い方をすれば、自分自身の過去の経験に照らし合わせてそこからもう一段深い学びを引き出す、自分の行動や体験をもう一度じっくり解釈してみる、形式知として一度体系化/定着させる。そして、将来に渡っての学びのレセプターを作るという行為は、絶対に価値があると信じている。(もちろん、一部には僕自身の拙い文筆力の限界により伝え切れてないという面も多分にあります。ごめんなさい...)
てな訳で、かなり前振りが長くなってしまい恐縮ですが、いくつかご紹介。
コミュニケーションのツボとコツ
"リーダーシップにおけるコミュニケーションとは、何を言うべきか、だけじゃなくて、何を言わないべきかも凄く大事。全てを一律で組織のメンバーに共有すればいいという訳でもない。言わないということも一つの明確なメッセージ。何を言い何を言わないかの選択は慎重にやりなさい。"
逆説的で面白く、且つ本質的なことをexplicitに言ってくれていて非常に刺さった。
"世の中的に持たれている最大の誤解は、リーダーシップとはマネジメントポジションにある者だけが発揮するものだという先入観。リーダーシップはポジションとは全く別。リーダーシップとは行動。組織のヒエラルキーの中での下の階層への影響だけがリーダーシップじゃない。上や横への矢印も含めた『組織の人々に対しポジティブな影響を与える作用』がリーダーシップの本質。従って、例えあなたが一社員であったとして、リーダーシップはあなたにとって常に考えなくてはいけない重要なレバーの一つ。"
これも教科書的にはよく言われることだし皆知識としては知っていることだが、改めてその意味を考えさせられた。
"リーダーは、他の価値観、他の意見に対し、「同意」しないまでも、少なくとも「理解」しないとだめ。自分とは全く異なる意見でも、それを撥ね付けるのではなく、少なくともそういう考え方があり、なぜ彼らがそう考えるのかまで降りて理解することが必要。自分と異なるパースペクティブを理解する力は極めて重要なリーダーとしての必須条件。"
そうだよねー。自分はどれだけ出来てるんだろうか。間違いなくこの点、未熟だよな、これからキャリアを積んでいく上で鍛えていかなくちゃ行けない大きな要素だよなと思った。
"原則として、コミュニケーションは早ければ早いほど、クリアであればクリアであるほどいい。危機的な局面にあったとしても、仮に結論が決まってなくても、少なくとも、「今、こういう方法/視点で議論している、あと○分で方向性を伝えられると思う。申し訳ないがもう少し待ってくれ」の一言があるのか無いのかでメンバーの不安感/不信感は全く異なったものになる"
身近な例で、僕からのメールでの質問を受けて、「少なくとも受け取った、理解した。連絡してくれて有難う。今の時点では答えをあげられないけど、ちょっと考えて何日以内に返事するね」というコミュニケーションを習慣的に出来る経営者を思い出した。自分はそういうコミュニケーション出来てるか?
"Illusion of transparencyの問題。マジックミラー。世の中にいるほとんど全てのリーダーが、実際以上に自分の考え方が周囲から理解されている、自分は十分にコミュニケートし切った、と誤解してしまう。自分から周りは見える。でも、あなたが想像している以上に周りからあなたは見えないもの。これは構造的に全てのリーダーに起こるジレンマ。あなたたちにも同じ問題が起こるから覚えておくこと"
"Agreeして貰えるかは別として、Commitして貰えるかが大事。必ずしも全員が合意する必要は無い。それは不可能。それでも、組織を前に進める必要がある。Commitして貰うためには、ちゃんと相手のことを考え、そのことをちゃんと相手に理解してもらい、プロセスに巻き込んだ上で、フェアに意思決定をすること。クリアにプロセスとクライテリアを説明をすること。"
自分自身はリーダーとして、きちんとそれが出来て来ただろうか...あの時なんてどう考えてももっと上手くやれたな...などと自分のダメっぷりを嫌と言うほど反省させられる。
「価値」
授業の後半で、もう一つ、別の実験をやった。となりの席に座っているクラスメートと二人一組になり、「あなたは何の仕事をしていたの?/卒業後に何するの?」から始まり、その答えに対し「何でそれがあなたにとって重要なの?」を5回繰り返すという作業。その人の根元にある最も重要な価値を掘り下げて炙り出すという作業。
実験をやってみて、最後にお互いに相手の答えを発表し合って、ちょっとだけ驚いた。70人70様のキャリアからスタートしたのに、結局5回のなぜ?を繰り返すと、驚くほど多くの人が同じ答えに行きついた。「それで皆が喜んでくれるから」、「世の中をより良くしたいから」、「それが自分にとって一番生きがいを感じられるから」、「それをやることが一番ハッピーに感じられるから」、「天命だと信じるから」。
先生曰く、"仕事や会社の違いによって一番大事な価値そのものが変わると思う?そんなことは絶対に無い。「あなたの仕事、会社の存在意義は?」という質問に対して「株主価値を最大化すること」なんて答えが本質だと思う?人々はそれでエキサイトされるんじゃない。結局個人レベルでの価値が一番重要。だからこそ、説得力のあるstoryで価値を語れるか、その価値によって人々をinspireできるか、ワクワクさせられるかがリーダーにとって最も大事な役割なんだよ"
"例えば、レンガを積んでる二人の大工さんに「何をしてるの?何でレンガを積んでるの?」と尋ねたとしよう。一人は「ああ?見てわかんねえのかよ!?レンガ積んでんだよ!」と答え、もう一人は「この地方で最も美しくて大きなカテドラルを建ててるんだ。」と答える。どっちが幸せで、どっちがいい仕事をすると思う?。結局人は、「自分は何のために働いてるんだ?」、「What makes you most proud?」という「価値」で生き、働いてるんだよ。"
"あなたが何に最も誇りややり甲斐を感じられるのか?それがValue。そのValueを映すあなた自身のストーリーで語りなさい。○○出身です、とか、○○してました、という履歴書じゃないよ。その裏にある、あなたにとって大切なものは何か、なんでそう思うに至ったのか、それを日々どう実践してるのか。そういうストーリーと、あなたの生き様で語りなさい。"
とまあ、そんな感じの授業でした。リーダーのコミュニケーションを深いレベルで腹落ちさせてくれた。
「リーダーシップ道」
こうやって改めてリーダーのあり方についてがっぷり四つで学ぶのは、物凄く新鮮で面白い。と同時にいろんなことを考えた。
授業を通して、こういった形で、「リーダーとはどうあるべきか」を一つの体系化された分野、「道」として定義し、それを社会として考え続けるアプローチを目の当たりにしてきた。僕自身日本にいたころはあまり気付いていなかったが、アメリカは日本とはかなり違ったレベルでそれをやっていると感じる。これを長年掛けて、社会のリーダーとなる人たちが共通言語として、当然必要な教養として学び続けている。
(もちろんアメリカにはいろんなダメなところもあるし、これらを学んでもダメなリーダーはいるんだろうから、決して手放しで礼賛する訳じゃないけど、)少なくともこの仕組みは、やはり国としての強さを徹底的に変えていると感じた。世界を土俵としてリーダーとしての強さや優秀さを考えるとき、こういうレベルを前提としなくちゃいけないのかもなと思った。
興味の対象の変化
そして改めて、この授業を通し、そしてKelloggでの一年間を通じ、ビジネスや経営の世界における自分の興味が大きくシフトしていくのを感じる。この辺のリーダーシップ、EQサイドの話。
戦略コンサルティングの仕事を6年間やってきて、戦略を考える、問題を解決する、物事を前に進めるという、IQサイドの話に対しては散々っぱら頭を使い続けてきた。EQサイドが必要ではなかった訳でもないし、それが重要じゃなかったわけでは決してなかったが、これだけexplicitに体系的にリーダーのあり方について思考を累積するという機会は無かった。
入社以来、戦略やマーケティング、ファイナンスといったハードスキル寄りの話、知恵寄りの話は大好きだったし、知的好奇心を感じ続けていた。入社当初は(誤解を恐れずに言うと)遊びたい盛りの子供が最高にハマれるおもちゃを貰ったかのように、嬉々として戦略や経営をゴリゴリと考えまくり、それが新鮮で、楽しくて仕方が無かった。その世界で自分が成長していくのが如実に感じられ、若くてもそれを武器に価値を付けられることに興奮を覚えた。
もちろん、今でもそれらの話は好きだしワクワクできるのだが、その興味が、Kelloggでの体験を通じ、30歳を目前にして、少しずつこちらのリーダーシップ、リーダーとしてどう生きるのか/組織や世の中にどうインパクトを与えて行くのかといった話に移ってきていると感じる。あと一年間。自分がどう変化していくのか、どういう方向に向かっていくのか。それはそれで凄く楽しみだ。引き続きじっくり自分と会話し続けていこうと思う。
IM Class of 09
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