さて、前回の続き。これまでのあらすじをクイックに説明させて頂きますと...
7年前、ラクロス不毛地帯から、初心者を中心とした編成で立ち上がったノースウェスタン大(以下NU。Kelloggが所属する大学)の体育会女子ラクロス部は、元伝説的プレーヤーでもあるヘッドコーチのKelly Hillerの努力により、「スクール☆ウォーズ(「悔しいです!!」ザブングル風)」を髣髴させる怒涛の成長を見せ、東海岸の伝統的強豪校を次々と破り、創部からたったの4年で全米ナショナルチャンピオンに上り詰める。その後も勝利を重ね続け、遂に今年の5月に4年連続の全米王座に付くという前代未聞の結果を残した。「大学スポーツの歴史に残る奇跡」と世間では評されている。(で、その試合を生で見た僕は感動して泣きそうでした、というのが元々の話。)
以下、ラクロスを全くご存じない方にもご理解頂けるように努力しながら書きますので、もしご興味があったら是非ご一読下さい。ちなみに、あくまで完全に僕個人の私見です...
1.前提条件としての、伝統的業界
そもそも、ラクロスは非常に古くて伝統的なスポーツ。以前もちょっと触れたが、そもそもの起源が400年前。アメリカのボルティモア、メリーランドからニューヨーク、ボストンに掛けての東海岸で伝統的にプレーされてきた。WASPのEstablishmentコミュニティの地元密着型スポーツ。お爺ちゃんもお婆ちゃんもプレーしてて、孫のプレーに応援に来る。そんな環境。ゆーーーっくりと変化しながらも、基本的には何十年と同じ戦い方をしてきた。日本で言うと、剣道や柔道のようなスポーツ。その中でも、道具とルールを積極的に進化させてきた男子ラクロスに比べ、女子ラクロスは古き良き伝統と歴史を重んじ、プレースタイルを大きく変えることなく続いてきた。
2.地殻変動
そんな中、この10年で、ゆっくりだが確実に、この業界の「地盤のズレ」が起こった。大きく、二つのゲームの前提条件が変わった。
一つは、ギア(道具)の進化。
具体的には、ラクロススティック(あのスプーンおばさんみたいな棒)の性能の飛躍的向上。以下、少々マニアックな話だが、近代女子ラクロスの道具には大きく二つのジャンプがあった。元々、ラクロスはネイティブアメリカンの部族が使っていた木の枝や弦や皮を使った道具に起源がある。従って、70年代、80年代までは、基本的には木で出来たスティックを使っていた。それが、90年代から2000年に掛けて、ほとんどが、より軽くて操作し易い、スチール+プラスチック製のものになった。
もう一つは、身体能力の飛躍的向上。
女子スポーツへのウェイトトレーニングの積極的な導入と、競技人口の広がりによる、パイそのものの急速な拡大、それに伴うタレントの流入増加を促し、結果として、ラクロスの第一線で戦う選手たちの身体能力を大きく押し上げた。「器用で賢い」だけでなく、そもそもハイレベルのアスリートであることが土俵に乗るための条件になってしまった。
3.でも、変化に付いていけない/変化を受け入れたくないEstablishment
そういう変化に、女子ラクロスに関わる誰もが何となく気付いていた。「道具が進化して、最近の子たちはシュートが速いわねー」「最近の子達は脚速いわよねー。栄養摂ってると違うわねー」という話は散々出るものの、それが、5年後、10年後に、より大きな戦略そのもにどういう影響を与えるのか、ゲームを司るメカニズムそのものにどういう影響を与えるのか、その新しい世界の中で勝つ戦い方って何なのか、という問いをゼロベースで考えるとどういう部分にまでは十分にイマジネーションが及ばなかったのではないか。
でもそれは無理も無い。多くの選手たちが子供の頃から母親や祖母と同じプレーを当然のものとしてプレーし続けてきた。イメージで言うと、日本の地元密着の剣道場や少年野球チーム。大学強豪校でラクロスを教えるコーチたちだって、大ベテラン。過去の戦いのルールの中で成功を収めてきた人たち。自分たちにとってcomfortableなparadigmのことしか考えられなくて当然。それとは違うパラダイムを考えることは、自分の過去の成功やアイデンティティを否定することにもなる。そんなこと突然やろうとしても周囲の誰も理解してくれないわな。普通。
ということで、ほとんどの強豪チームが、多少のマイナーチェンジは行いながらも、ゼロベースで根源的に書き換える、という作業を行ってこなかった。
4.そんな中、伝統や既成概念の呪縛から解き放たれた一人の革命家が、確信を持って、業界にブレークスルーを起こした。
これまであった価値観をガツンと否定し、且つ、ぐうの音も出ない程の結果を出してしまった。それがKelly Hiller率いるNUがやったことだと思う。
(以下、彼女が直接そう言っていたわけじゃなく、僕が見ていて、恐らくそうしたんだろうな、という仮説)
一つは、素材選定に於ける徹底したフィジカル重視。
三試合見ていて気付いたのだが、明確に、他の伝統的強豪3チームと比べて、体格が違う。
女子ラクロスの強豪校はPrinceton, U-Penn, Notre Dameと、どこも東部のお嬢様たちというイメージ。パンフレットを見ても、髪も化粧も気を使ってる可愛らしい大学生たち、という感じ。上手いんだろうけど。試合で見ていても、みんな脚が細くてスタイルが良くて綺麗。普通にキャンパスにいそうな、多少締まった感じの健康的な普通の女の子たち、という感じ。
一方で、NUだけ、明らかに違う。骨格が一回りでかい。身長180センチ、170センチ台後半の選手も何人かいる。肩幅が一回り広かったり、下半身がかなりガッチリした選手が多い。髪も全員バチッと上に上げて、ヘッドバンドをつけ、完全にアスリート仕様。見るからにこの人たち強そうだわ...というのが見て取れる。
そしてウェイトトレーニングを初めとしたフィジカルトレーニングを相当やり込んでるように見える。じゃなきゃああいう脚にはならんでしょ、という脚。
二つ目は、海外からも積極的に才能を引っ張ってくるという点。オーストラリア代表のエースで、今大会のMVPでもあるNielsen選手がその端的な例。
三つ目は、高いプロ意識。別にプロではないのだが。アスリートとしての意識レベルの高さ、自分たちが歴史を変えるんだという強い誇りと自信。そのために全てを掛けるというコミットメント。日々の練習で培ったアスリートとしてのDiscipline、振る舞い。もちろん対戦校も努力しているし、世の中的に見れば高いレベルにあるのだろうが、(こういうことを申し上げると大変失礼なのだが)やはり、お洒落な学生スポーツ、という雰囲気が強い。そんな中明らかにNUはその徹底度合いに於いて頭一つ抜きん出ていた。パンフレットのチームの集合写真を見ても、その差は一目瞭然。ほんとに。
そして、四つ目、これが一番でかい気がするのだが、試合の中身に関しては、一言で言うと、「男子ラクロス化」。
NUはあらゆる面で、対戦相手3チームの伝統的な女子ラクロスのプレーとは完全に異なる戦い方をしていた。既存の女子ラクロスというよりも、ボディコンタクトがあって道具も違い、本来全く別のスポーツであるはずの男子ラクロス近い戦い方。ここから先の戦術に関するくだり(++++で囲まれた部分)はちょっと専門的過ぎる記述なので読み飛ばして頂いて結構です...
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例えば、オフェンスのチーム戦術に関しても、エックス(ゴール裏)にスピードとスティックワークがある選手を1、2枚置き、他の全員がゴール前に密集してスペースを作り、ゴールの裏からジグザグに動きながら1on1を仕掛けてゴールを狙いに行く。同時に他のメンバーはピック(バスケで言うところのスクリーン)を使ってボールを持っていないところで楽にフリーを作りフィード(ゴール前へのアシストパス)を放り込み、クイックにシュートを打つ。
ゴール前の高い位置から1on1を掛けても、スライド(カバーディフェンス)のスライドで空いたゴール前のプレーヤーに鋭いフィードを出して点を取る。逆サイドにスペースが出来れば、スピードのある長距離パスを2、3本バババッとつないで展開する。
それらを、完全なフリーができるまで何回でも繰り返す。ボールポゼッションを重視し、無理なシュートは絶対に打たない。ことん合理的に、無理して相手の混んでいるところにゴリゴリ1対1で勝負しに行ってボールを失うリスクを取るのではなく、スペースを作り、1対0を作って最も確率の高い人がシュートを打つという考え方。他のチームの選手が、ボールを持って、「よし、1on1行くよ」で、相手ディフェンスも準備が整っている状況に正面から切り込んでいくという既存の正攻法で攻めるのに比べ、遥かに合理的で洗練されているイメージを受けた。
ディフェンスに関しても、徹底してプレッシャーを掛け、男子ラクロス並みにゴリゴリとプッシュするとともに、スティックで相手のスティックをチェックし、ボールを落としに行く。詰め過ぎてスルリと抜かれることをある程度覚悟してプレッシャーを掛ける。抜かれても身体能力でカバーして追いつくか、カバー、カバーのカバー、カバーのカバーのカバーと、完璧なコミュニケーションでマークする相手を受け渡し、チームとして補完し合う。結果、積極的にボールを奪いに行く。
これも、他の3チームが、保守的に、相手との距離を取って守り、ボールを奪うというよりも、シュートを打たれるなら極力確率の悪いシュートを打たせる方がまし、という、どちらかと言うと消極的/保守的なディフェンスをするのとは明確に違っていた。
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ここまでユニークなスタイルで、ここまで絶対的に差がある王者は今までなかなか見たことがない。そういうことが起こっていた。感動的なくらい、痛快なくらい、意図したことがハマッていた。女子ラクロス素人の僕が見てもそう思うのだから、恐らく女子ラクロスのプレーヤーやコーチの方が見たらもっと深いレベルで感動するのではないかと思う。これが、ここ数年で起こっていた事。(というのが僕の勝手な理解。)
5.さて、では、なぜ、NUにだけそれが出来たのか?
正確には、これはヘッドコーチのKelly Hillerのやったことだから、なぜ、彼女にだけそれが出来たのか?という部分に想像をめぐらせてみる。
という話をまた次回。
IM Class of 09
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