第1回:鈴木慶太さん

Tulane Business Plan Competitionで優勝
(Tulane Business Plan Competitionで優勝)

ケロッグの卒業生のほとんどは、金融、コンサル、メーカー、政府、社会貢献など、さまざまな分野で、リーダーシップを発揮して、活躍をしています。
KACJの新プロジェクトである『Katyが紹介します、ケロッグの素敵な仲間!』は、インタビューを通じて、優秀なケロッグ卒業生の魅力をより明確に伝えます。

このコーナーの一人目は、2009年卒の鈴木慶太さん。
鈴木さんは、社会起業家として、株式会社Kaien(カイエン)を、卒業後まもない2009年に設立されました。
そのきっかけは、なんと、ケロッグ留学直前に、3歳だった息子さんが自閉症だと診断されたこと。
鈴木さんの事業は、自閉症の強みを活用し、企業のニーズにつなげ、自閉症の方々の潜在的能力を発揮する場を創造することです。
このような事業は、日本で唯一であり、世界でもアメリカ、デンマークぐらいしか先例がありません。
特に子を持つ親なら誰しも考えさせられる、鈴木さんの挑戦をお読みください。

『息子を通じて知った自閉症、ケロッグ留学、そして、Kaien設立への道』

Kaienを立ち上げるきっかけとなった経緯、特に、まだ3歳だった息子さんが自閉症だとわかったときの状況や、感じたことなど、教えてください。

ビジネススクールに行く前は自分が会社を作るとは思っていませんでした。起業というのは、まっとうな人間が行うものではないと思っていたからです。自分はいわゆる純ドメで、両親も会社員と専業主婦、親戚まで広げてみてもごくごく一般的な会社員や個人事業主の家庭ばかりだったからです。なのでKaienを立ち上げるまでになるには、やはり交通事故の連続というか、いろいろな事が起こってここまで来たのだと思います。(立ち上げるだけではダメで、これから成長していかないと、株主にも、自閉症の方々にも、そしてなによりお客様にもいいことはないと思っていますが。。。)

大きな理由となったのは、息子が自閉症と診断されたこと、MBAでビジネスプランを書くチームが作れたこと、デンマークに先例となるモデルを見つけられたこと、そして1年程度挑戦する資金がめどが立ったこと、始めのお客さんが取れてしまったこと、があると思います。

息子が自閉症と診断されたのは3歳の頃でした。そもそも自分はNHKでジャーナリストだったわけで、こういった社会的な問題についてはアンテナを高くしていないといけなかったのですが、自閉症についての理解は皆無でした。文字通り自分から閉じこもる症状で、ひきこもりなどと区別がつきませんでした。自閉症というのがものすごく誤解を与える訳語で、本来は、うちの息子もそうですが、どちらかというと自「開」的な人が多いということすら知りませんでした。

そのため、診断を受けに行こうと思ったのは、たまたま私がアメリカに留学しに行く、妻と子供は日本に残すという状況になったので、心配だから言葉の遅れが目立ってきた息子を一度医師に見せようぐらいの気分での受診がきっかけでした。(そもそも言葉が遅いというのが自閉症の一番の特徴だということを知りませんでしたので。。。)そこで、育児相談をしていた保健センターにまず行ったところ、診てくださった方の表情がみるみる曇っていくことにショックを覚え、自閉症という単語をその時に教わりました。とにかくショックで、その後数日は車を運転していても涙が止まらず、あまりはっきりとした記憶はありません。そんな姿を見せてしまったので、なによりも息子に申し訳なかったなあと思います。

米国に一人渡ってからも、本当にこれでよかったのだろうかと自問自答しました。Kelloggをやめてでも日本に帰ってすぐ稼いだほうがいいんじゃないかとか、そういう考えです。しかし、自閉症について色々と調べるうちに、誤解していたような症状ではないし、そもそも息子は診断前も後も同じ人間であるし、親として何かしなくてはと、徐々にですが、思えるようになってきました。悲しみには、ショックに始まって状況を受容するまでのいくつかのステージがあると言われていますが、まさにそのステージを一つずつ進んだ感じでした。その答えが、たまたま他の要因も重なり起業にたどり着いたという感じです。

落ち着いてきたときに思ったのは、自分のように自閉症を誤解する親が出てきてほしくない、でも不安を感じないためにはやはり将来のこと(自分たちが死んでから子どもが自立できるか)が解決されないといけない、と思うようになったわけです。そんな折に、自閉症の特性を強さとして、いわゆる健常者よりも優れた技術者として活用している企業がデンマークにあると知り、本当に興奮しました。いろいろな意味で偶然が重なったと思います。

『自閉症とKaienについて』

自閉症とはどんなタイプがあって、Kaienはどんな方を対象に、どのようなサービスを提供しているのか、教えてください。

自閉症と言っても、大きく分けて二つ有り、知的遅れのあるタイプ(いわゆる古典的な自閉症でカナータイプ)と知的な遅れのないタイプ(アスペルガー症候群や特定不能の広汎性発達障害と診断される)に分けられます。

Kaienは後者の方々に、IT技術者の基礎的な知識・技能を教える職業訓練を実施し、その方々を障害者雇用という枠組みで、IT業界などの企業にご紹介するというサービスをしています。特にIT技術者の中でもソフトウェアの検証、デバッグを行うテスターを育成することを目指していますが、最終的に就職する先は事務の補助やグラフィックデザイナーなど、広くPCを使う職種に広がっています。顧客企業としては、東京に本社を置く企業で、障害者の法定雇用率が1.8%だから数合わせでそこにあわせて罰金を免れようという後ろ向きの障害者雇用ではなく、障害者手帳をお持ちの方であっても優れた部分を活用して利益を出せる部署を作りたいという前向きな企業様が中心になっています。念のため言っておきますと自閉症の方々は顧客ではありません。あくまで訓練をうける利用者です。その利用者をご紹介する先が顧客であり、これが企業様になります。

なぜ自閉症の中でもアスペルガータイプがという質問ですが、これはやはり知的に高度なサービスを行うときに、自閉症の中でも知的に遅れのないタイプの方に絞ったほうが良いと思ったからです。アスペルガーと診断される人たちは近年急激に診断例が増えていています。理由としては発達障害者支援法が2005年に施行されたため、自閉症やアスペルガーという言葉が社会的に広がり始めたこと。特に大人では、自閉症などが要因となり職場で馴染めず、不況も重なり離職し、精神的に追い詰められたときに心療内科を受診して診断されるケースが増えてきたことがあります。

Kaienを設立して、いろいろ苦労はあると思いますが、最もやりがいや幸せ、達成感などを感じたときってどんな時ですか?

やはり就職先が決まった時が一番嬉しいです。また契約を結んで、訓練の修了生を送り込む先が増えることがわかった時ですね。
それと、ほとんどの自閉症の方との面談時に言われますが、「自分の強みを見てくれるところなんてこれまでありませんでした」「Kaienさんがあるということだけで希望です」などといってもらえることです。

このビジネスが軌道にのるために、必要なサポート、または、課題はなんだと思いますか?

基本的には今のモデル(訓練=>紹介)ではソコソコできても、労働集約型でスケールは出ないと思っています。きちんと自社で雇用して、自分のところでIT技術者を活用したサービスを提供できるようにしたいと思っています。つまり、ビジネスモデルのギアがあるとしたら、もう1速か2速どこかで変えていかないといけないということです。
紹介業とIT業は、経営者としても組織としても「付ける筋肉が違う」とよく言われますし、僕もそのとおりだと思います。どのように次のモデルに脱皮していけるか、今何が足りなくて、どのようにしたらそれを会得できるか、それを毎日考えています。

『自閉症の方の強みを引き出す訓練事業においては、日本でオンリーワン』

スペシャリステルネ創業者のThorkil Sonne(トーキル・ソナ)氏と
(スペシャリステルネ創業者のThorkil Sonne(トーキル・ソナ)氏と)

デンマークのスペシャリステルネ社を参考にして起業したとありますが、同社は、デンマーク社会でどのように認知され、役立っていますか?

スペシャリステルネ創業者のThorkil Sonne(トーキル・ソナ)氏は、デンマークのみならず世界で認知されています。ASHOKAからはフェローとして、またGoogleやMicrosoftともみつな関係を築いているようです。また世界最大規模の自閉症団体のAutism Society of Americaなどからも頻繁に招かれて、そのモデルを世界に広げていこうと考えています。やはり自閉症という弱者と思われている人の中でも、なかにはその弱みを強みに変えられる、そしてそれが職業に結びつき、他の人には出せない優れた成果を挙げられるという、逆転の発想を見事に事業に結びつけたところが評価されているようです。

Kaienのように、自閉症者向けに職業訓練をしたり、雇用支援をする会社は、日本ではKaienだけですか?
世界に学ぶ事例が欧米には多くありそうですが、実際はどうですか?

唯一の場だと思います。他にも自閉症の方に勉強を教えたり、PCを教えたりということもありますが、自閉症の方に特化し、その特性を引き出すという訓練はここだけのはずです。
当然、デンマークを参考にしていますので、デンマークでも同じような訓練を行っています。ただこれは私もデンマークの会社を2回訪問して気づいたことですが、日本の方が優秀な自閉症の方々が職についていないケースが多くなっています。そのためKaienの方が高度なことをより教えやすいというのが実態です。(これはある意味不幸なことで、それだけ能力がある方も、日本の職場では弾き飛ばされやすいということだと思います)
また私はKelloggで学んでいたときに、Kaienのビジネスモデルを用いて、地元のNPO・Aspiritechでプロジェクトを走らせていました。名前だけですが、今でも私はそのNPOの理事を務めています。今彼らも自閉症の人を訓練しソフトウェアテスターとして活用しています。ですので世界的に見て、デンマーク、日本、アメリカの3つの企業・団体でしか、まだ行われていない事業です。

『鈴木さんとキャリア選択 - MBAホルダーである前に、人だから -』

鈴木さんは、幼い時や学生のころは、どんな少年でしたか?
または、どんな事に興味をもっていましたか?

漫画は買ったことありません。テレビゲーム機もなかったです。小2の時に、独学で野球のスコアブックを覚え、高校野球やプロ野球の試合だけでなく、草野球の試合まで記録しているような子でした。
勉強や体操はできたタイプでした。が、小学校の時から先生が嫌いで生意気に反論していました。高校のときは部活をしすぎて出席日数が足りなくて大変でした。
谷崎潤一郎に惹かれて文系を目指しましたが、大学時代にはまったのはオーケストラでした。
そのうちに外国にどうしても行きたくなって、結局留年して、1年弱、バックパックを背負って一人旅をしました。特にアメリカやオーストラリアの砂漠が美しくとても感動しました。
とまあ、脈絡なく生きてきているなぁと常に感じていました。興味を持ち続けている物ってなかなか無いです。

ケロッグ卒業後に、ブーズ・アンド・カンパニー社に内定が決まっていました。Kaienを設立する道に至った経緯や、価値感について、教えてください。

最終的には、KelloggのInterim DeanだったChopraと、SEEK(Social Enterprise at Kellogg) DepartmentのディレクターのProfessor Feddersen が小切手送ってきてくれ、これで当座の生活費がカバーできるだろうから、起業して頑張れ、といってもらったことが大きかったです。

価値基準ですかぁ、、、まあ、もともとお金を沢山稼ぎたい方でもないですし、物欲はゼロと言ってもいいぐらいないです。つまりgreedy なMBAタイプではないのかも知れないですね。卒業後の時点では31歳だったので、一度や二度失敗したとしても、まだまだ取り返せるという楽観的なところはあったと思います。そこまでは大きな決断ではなかったです。やりたいからやります、って感じでした。ワクワクしてきました。その決断をしたときは。

一般的には、金融、コンサルティング、メーカーなどで、エリートとして活躍しているのがMBAの伝統的なイメージです。しかし、鈴木さんは、社会起業家としてのキャリアを選ばれました。
MBA的スキルは、社会的問題解決に多いに活かせる、または活かすべきだと思いますか?もしそうであれば、なぜそう思いますか?

自分では社会起業家になったつもりはなく、あくまでも自分のやりたい事、楽しめることを選んだ結果が今の道だと思っています。MBAホルダーである前に人ですし、人として一番楽しめる道を常に選びたいと思っています。MBAホルダーだから、こうあるべきだという考えはほとんどありませんでした。自分が人として楽しむ道がたまたま社会起業などと呼ばれる分野で、また社会問題の解決をするところなのかもしれません。いずれにせよ僕の好きな言葉で、Brick walls are there for a reason. They let us prove how badly we want something. というLast LectureのRandy Pauschの言葉があるのですが、まさにそのとおりで、壁があるからぜひぜひそこを乗り越えたいという気持ちがよく見え、そこがとても面白みを感じるところです。

『ケロッグと鈴木さん - 人生は、質の高い出会いをいかに重ねられるかで面白みが決まる -』

Kaienを起業するにあたって、ケロッグだからこそ、役立った知識、経験、人脈はなんでしたか?

ケロッグだったらこそ、と簡単には持ち上げられませんが、、、やはりビジネスプランを書く上で、KelloggのLevy Instituteの教授やスタッフにはとてもお世話になりました。毎週プランをブラッシュアップしてもらいましたし、コンペティションの際にはニューオリンズまで一緒に来てもらったりしました。また同じくビジネスプランを書く上で、非常に優秀な友人たちが周りにいたのはとても支えになりました。日本に帰ってきて起業したあとも、増資の申し出に10人を超えるケロッグ卒業生が応じてくださったり、顧客候補を紹介してくださったりしています。増資は今後もどんどんやっていきますので、ぜひ皆様も応じてくださいね!!

世界には沢山のビジネススクールがあると思いますが、鈴木さんから見たケロッグの素晴らしい点は何だと思いますか?

そうですね。。。他のビジネススクールに行ったことがないので、いつもこの質問を受けると、「なんともいえないです、他を知らないので、比較のしようがないです。。。」とお答えしています。
とはいえ、どのトップ校でもそうだと思いますが、人生を変えてもいいような出会いが色々とあるのはとても刺激的でしたし、今でもKelloggの人脈でどんどんとその輪が広がっていくのはとても嬉しいことです。やはり人生は質の高い出会いをいかに重ねられるかで面白みが決まると思いますので、その意味では若いうちの2年間を過ごすには最高の場所だったと思います。

忙しい中、インタビューに答えてくれた鈴木さん。今は自閉症の方向けの職業訓練に集中し、8月からは、今後の成功への要となるプロジェクトをスタートします。ケロッグの誇りとして、多いに刺激を受け、応援したい存在です。

取材:ケイティ堀内(96年卒業)
ヒト・ブランディングのための国際マーケティング・エージェント
H&K グローバル・コネクションズ